東京小唄・清元・三味線教室

明烏(上・下) / 明烏花濡衣

投稿日:2026年9月26日

【歌詞】

明烏(上)

白雪の積もるも恋にたくらべて 解けぬ思いを浦里が どうした縁で彼の人に 逢うた初手から可愛さが 身に染み染みと惚れぬいて あけて口惜しき鬢の髪 撫であげあげ

「浦里 もう誰も差合はないかや 「見世が出たれば今の間は 誰も来る事ではござんせぬわいな 「ヤレヤレ この広い二階に 身一つ置き所のないというは アァ因果な身になった事じゃなァ 「サァこの様に堰きせかれ さぞ気詰まりでござんしょう それを堪えて下さんすも みんな私が可愛いと思うてのお志 嬉しゅうござんす かたじけないわいなァ

抱きしむれば いやおれ故と引きしめて 物をも言わずしめ合いて あとは涙にくれけるが

「いつまでこうしていたところで 限りもなき二人が仲 長居する程そなたの身詰まり この程段々話す通りかのお人へ 色々と手を回し言い入れても 叶わぬ望みと願い書まで 突き戻されし身の本意なさ

そなたも共にと言いたいが いとしそなたを手にかけて どうなるものぞ長らえて 我が亡きあとで一ぺんの 回向を頼むさらばやと 言い捨て立つを

アもし取り付いて あんまりむごい情けなや 今宵離れてこなさんの まめで居さんすその身なら また逢う事のあろうかと 楽しむこともあるべきが かねて二人が取り交わす 起請誓紙はみんな仇 どうで死なんす覚悟なら 三途の川もこれこの様に 二人手を取り諸共と なぜに言うては下さんせぬ 殺しておいてゆかんせと 男の膝に縋り付き 身を震わして泣き居たる

遣り手の萱が声として 「子供や緑や エェモ誰も居ないのか オオォ浦里さんェ 「アイお萱どん 何の用でござんすェ 「他の用じゃござんせぬが 夕べから居続けのあの客人 ありゃどこのお方でござんすェ 「さあ どこやらのご子息さんじゃ という事でござんすェ 「イエイエ そうは抜けさせぬ 確かにせかれたあの時次郎 旦那さんが呼んでじゃござんせ エェござんせ 「アァこれお萱どん どうぞ許して下さんせ

一ト間の内より山名屋四郎兵衛 「エェまだるいまだるい そんな甘口で聞く奴じゃねぇ さぁおれと一緒にうしやがれ

罪も報いも後の世も 白髪頭のこめかみも 張り切るばかりのやら腹立ち 引っ立ててこそ降りにける

あとに大勢男共 屏風の内の時次郎 無二無三に引き出だし 踏むやら打つやら叩くやら すぐに表へ突き出だし 門の戸はたと閉めにけり

明烏(下)

折ふし降りくる雪吹雪 うちには亭主が浦里を 庭の古木に括りつけ 箒おっとり 声荒らげ

「ヤイヤイ 浦里 その苦しみゃア心がらだ 総別遊女を折檻して 客を堰く事客の為 二つにゃぁ女郎大切 身代はこりゃマ猶大事 あの客もまだ若い人の様だが あんまり繁々通われちゃア 親がかりなら勘当 又主持ならばしくじる道理 こんじゅう年期の切り替えしも みんなあの客の為 この上は心中するか 駆け落ちか サとどの括りゃ知れてある詮索幾ら言っても聞き入れのねぇ あの時次郎の事ハ モすっぱりと思い切ってしまえ アァこれ男ども 浦里を気をつけい

ト言い捨ててこそ奥に入る 浦里あとを打ち眺め 別れとなれば今までに 涙に暮れて居たりしが

「あの時さんは どこにどうして居さんす事じゃやら マ一度一度 顔が見たい 逢いたいわいなァ

昨日の花は今日の夢 今は我が身につまされて 義理という字は是非もなや

「あの二階で弾く三味線を 聞くにつけても思い出す いつぞや主が居続けに 寝間着のままに引き寄せて 弾く三味線の面白さ それに引き替えこの苦しみ アア味気ない浮世じゃなァ

好いた男にわしゃ命でも 何の惜しかろぞ露の身の 消えば恨みもなきものを

「わしがこの身は モどうなるとも

たとえこの身は淡雪と 共に消ゆるも厭わぬが この世の名残に今一度 逢いたい見たいとしゃくり上げ 狂気のごとく心も乱れ 涙の雨に雪解けて 前後正体なかりけり

男はかねて用意の一と腰 口に咬えて身を固め 忍びしのんで屋根伝い 見るに浦里嬉しやと 悲しさこわさあぶなさに 可愛と一と声明がらす 後の浮名や残るらん

【解説】

【演目概要】 『明烏(あけがらす)』、正式名称『明烏花濡衣(あけがらす はなぬれぎぬ)』は、江戸時代に成立した浄瑠璃・清元節を代表する名作演目です。吉原の遊廓「山名屋(やまなや)」の遊女・浦里(うらざと)と、大門前の揚屋の若旦那・時次郎(ときじろう)との深い絆と悲恋を描いています。

【あらすじと見どころ】

  • (上)情愛と発覚:浦里と時次郎は互いに深く惚れ合い、密会を重ねていますが、遊廓のルールや義理・世間の目が二人を阻みます。長居(居続け)をしていた時次郎の存在が遣り手のお萱や山名屋の亭主(四郎兵衛)に見つかり、時次郎は男衆によって手酷く打ち叩かれ、店から追い出されてしまいます。
  • (下)雪の折檻と忍び会い:亭主四郎兵衛は客を長居させ店規を乱したお咎めとして、浦里を寒空の降雪のなか庭の古木に縛り付け、猛烈に折檻します。雪が降り積もる中で心身ともに痛めつけられながらも、浦里は時次郎への思いを募らせ、三味線の思い出を回想しながら涙を流します。そこへ屋根を伝って忍んできた時次郎が駆けつけ、二人は悲痛で過酷な状況の中で互いの愛を確かめ合うという、情緒と凄艶さに満ちた場面展開が見どころとなっています。

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