明治一代女

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こんにちは

小唄の理解を深めるために川口松太郎の小説『明治一代女』(昭和10年)を読んでみましたので、紹介させていただきます。

明治一代女といえば、
「浮いた浮いたと浜町河岸に
浮かれ柳の恥ずかしや
人目をしのんで小舟を出せば
すねた夜風が邪魔をする」
という流行歌が思い浮かびますが、この小説は明治20年におきた浜町「酔月楼」の女将花井お梅が使用人の八杉峯吉を刺殺した「箱屋事件」を題材にして書かれました。

柳橋芸妓叶屋のお梅が、末は夫婦と誓った歌舞伎役者、沢村仙枝の三代目仙之助襲名費用、千両を何とか工面してあげたいと考え、慕われていた箱屋の巳之吉に夫婦になることを条件に田舎の田畑を売って用立ててもらう。
しかし、大雪の降る夜更けの浜町河岸で、仙枝に未練の残るお梅に嫉妬し酒に酔って七首(あいくち)を持ち出した巳之吉と揉み合ったはずみで、逆に刺し殺してしまう。
誤って巳之吉を殺めてしまったお梅は慣れない安宿を転々として身を隠していたが、仙之助の晴れの改名口上に姿をあらわすのであります。

昭和10年11月の明治座、新派の芝居で主役の花柳章太郎(1894-1965、戦前から戦後にかけて活躍した新派を代表する女形役者。人間国宝)は、大雪の降る大川端殺しの場で巳之吉と揉み合うお梅を黒地に朱の縦縞の着物「赤大名」で演じ、初日の客席にいた原作演出の川口松太郎もその美しさに酔いしれてしまったそうです。
以後、お梅の衣装は赤の大名縞「赤大名」が定番となりました。

小唄は、花柳章太郎が「大雪や女の傘の持ち重み」という自作の句を冒頭に据え、雪の浜町河岸のガス灯と枝垂れ柳の間に立つ赤大名に潰し島田のお梅を唄いあげたものです(師匠の小唄選曲集第一集14頁参照)。

大雪(明治一代女)

花柳章太郎詩
春日とよ年曲

本調子
替え手三下がり

大雪や女の傘の持ち重み
河岸に枝垂れし枯柳
火影ほのめくガス灯火
赤大名に献上の
仇な潰しのもつれ髪
ほんに辛気な渋蛇の目