藤十郎の恋

170719_1908~01.jpg 170719_1906~01.jpg 170719_2105~01.jpg

こんにちは

小唄の理解を深めるため、菊池寛が大正8年に発表した小説、初代坂田藤十郎(1647-1709、上方歌舞伎の創始者の一人で和事を確立した役者)の実話をベースにした『藤十郎の恋』を読んでみましたので、紹介させていただきます。

舞台は元禄11年(1698年)、春の京都四条河原、万大夫座の名優、坂田藤十郎は、近頃、江戸より都上りの中村七三郎の人気に押されていて、次の新作狂言でどうしても巻き返しを図りたかった。そこに狂言作家の近松門左衛門が持ち込んできたのが、当時、世の中を騒がせた、おさん、茂兵衛の心中事件を題材にした密通物。
しかし、不義密通は引き回しのうえ二つに重ねて四つ切りにされた時代、藤十郎に道ならぬ恋の経験などなく密夫の役の工夫がどうしてもつかずにいた。
悩み抜いた挙げ句、「二十年来、密かに想い続けてきたこの藤十郎の恋をあわれとは思さぬか」と偽りの恋を仕掛け、貞淑な美人と評判の高い人妻、芝居茶屋の女房、お梶を口説く。
幼なじみの藤十郎に人知れぬ思慕の情を抱き続けていたお梶、その言葉を本心と信じ意を決して覚悟を決め、絹行灯の灯をフッと吹き消したあと、障子の外をうかがい、男に身を任せたそのとき、藤十郎は突然暗闇の中に消え去ってしまう。
後日、そのときの様子を取り入れた真に迫った藤十郎の演技は絶賛されるが、偽りの恋で心を弄ばれ傷ついたお梶は、受けた屈辱に耐えきれず、女の意地を通すのであります。

昭和30年の大映映画、長谷川一夫、京マチ子主演の『藤十郎の戀』も傑作です。特に、藤十郎に言い寄られてからのお梶の葛藤を演じる京マチ子の官能美は絶品です。

紫の羽織(宵の謎)

昭和7年
上田哥川亭詩
吉田草紙庵曲

紫の羽織の紐の結び目の
どうして固い心やら
案じ過ごしてつい転寝の
片敷く袖の肘枕
まくら行燈のほんのりと
ゆかりの色の小夜時雨
濡れながら見る夢占に
涙で解けた宵の謎
(解説は師匠の小唄選曲集第七集17頁参照)